(ブログ連載小説)いちごショート、倒れる #4

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4.警察ってタイヘンみたいですね
 女の子は急に顔を下向けて黙ってしまった。
 おやおや、女の子が顔を赤らめてしまうような魅力を発散してしまったかな?
 と、うしろに気配。
「おい、話は聞けたか?」
 鳥肌が立つ。頬が触れあうほどに近く、サクラさんの顔が突き出されたのだ。
 身を引いて、サクラさん側の耳を手で押さえる。
「やめてください。セクハラですか」
「立場が逆だろ。わたしが女で部下なんだから」
「そういうものですか?」
「そういうものなんだ。で、話ははずんだのか?」
「そこそこにはずんでいたかと」
「よし、じゃあ引き上げるか」
「え?もう?」
「大蔵がくるのが遅かったんだ」
「そうでしたっけ」
 大蔵は自宅へもどって着替えをしただけなのだけれど。
「じゃあ、また明日。あ、学校か。ちかいうちにね」
 女の子が顔をあげる。なにかいいたそう、だけど黙っている。大蔵は席を立って、バイバイと手を振って居間を出た。
 玄関を出ると、ほかの車はすっかり消えていて、大蔵たちが乗ってきた車だけがアイドリング状態でとまっている。やっぱり大蔵が遅かっただけのようだ。大蔵は助手席に、サクラさんは後部座席に乗り込んだ。
 後部座席に長老然とした米田さんが背を伸ばしてすわっている。サクラさんの相棒だ。サクラさんの相棒は米田さんにしか勤まらない。打たれ強いというか、暖簾に腕押しなのだ。きっと将棋が趣味だ。ただのイメージだけれど。
「ご遺体は?」
司法解剖
「これから?」
「メシのあとじゃないほうがいいだろ」
「どっちもどっちかな」
 車は大学病院に向かった。といっても、車の中で寝入ってしまうほど遠い。気がついたら、あたりはもう真っ暗。法医学教室の研究室へ顔を出す。
「ああ、きましたね。立ち会います?」
「はあ」
 気のない返事になってしまう。それはそうだろう。解剖なんて立ち会うのは勘弁願いたいというのが本心のところ、今回は小学生の女の子なのだ。ガラスの心が粉々に砕けて立ち直れなくなってしまう。
「大蔵くん」
「はい、なんでしょう」
「ぼくは外で待ってていいですか」
「ああ、大丈夫ですよ。ここはサクラさんに任せてぐえぇ」
「大蔵が立ち会わないでどうする」
 ぐいっと後ろ襟を引かれた大蔵と、当然大蔵に首根っこをつかまれた相坊が、サクラさんとご一緒することになった。
 司法解剖というのは、お腹の中から、脳みその中から徹底的に調べることになっている。痛いような、気持ち悪いような、かわいそうなような、顔がゆがんでかたまってしまうようなことが連続なのだ。それでわかることといったら、死因と死亡推定時刻、凶器くらいのものだ。犯人を教えてくれれば大変な思いをする価値もあると思うけれど、決してそんなことにはならない。

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