(ブログ連載小説)いちごショート、倒れる #7

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7.シュワシュワ炭酸はじけて爽快
 家庭で簡単に炭酸飲料が作れるなんて時代になっていた。大蔵が小学生の頃は、ラムネがシュワシュワして水に溶けると、なんだか得体のしれない飲み物が出来上がるという程度であった。
 目の前のノッポな機械をつかうと、専用のボトルに詰めた液体に炭酸を溶かし込むことができるらしい。ボトルが透明だから炭酸を溶かし込んでいるところを眺めることができる。
 ボトルの上から突き出て、ノズルが液体中に炭酸を吐き出す様子はなかなか爽快だ。勢いよく泡が吐き出されている。ボトルの底の方は気泡だらけ。これは、ちょっと見ていて楽しいもので、しばらくじっとこれだけを見つめていても見飽きそうにないくらいだ。
 ノズルから泡が勢いよく吹きだしているさまは、ジェットバスのイメージだし。そう思うと、温泉に行きたくなってきた。妻と二人、貸切風呂でノンビリ湯につかるのは、天国だろう。それに、妻の裸体は、なかなかに美しいのだ。貸し切りの露天風呂に配置したら、さぞかし。
「できましたよ」
「うん?なにが?」
「なにがって、アイティーに決まっていますわ」
 小学生の女の子を前に、何を考えていたんだ。大蔵は頬が熱くて、氷の入ったコーヒーサーバーを押しつけた。ああ、ひんやり冷たくて気持ちいい。
 シュワシュワと気泡を立ちのぼらせているアイスティーのグラスがふたつ、目の前の台の上に屹立している。透明感と、見た目の爽やかさがよい。ミントの葉でも上に添えたいくらいだ。
 メイドの女の子は、昨日もこんなメンドウなことをやって紅茶を用意したのだ。お疲れさまでした。
 銀の盆にグラスをのせる。
「じゃあ、部屋にもどりましょうか」
「はい、もどりましょう」
 女の子のあとについて廊下をゆく。
「あ、」
「なんです?今度は」
 昨日、アメやガムやラムネを常備しておかないとなんて思っていたことを思い出したのだ。
「そんなこと、いいじゃないですか、アイスティーだけでもおいしいですよ?」
「そう言ってもらえると、たすかります」
 今日こそは、なにかお菓子を買って帰ることにしようと、大蔵は考えるのだけれど、たいていすこしたつと忘れてしまう。
 部屋が近づいたから、大蔵が先を越して、ドアを開く。
「ありがとうございます。楽チンです」
「あれ?外に控えているメイドさんは?開けてくれないんですか?」
「鍵を開けないといけないから、お盆をもってもらって、鍵を開け、ドアも開けて、お盆を受けとって、やっと部屋にはいるのです」
「それはメンドクサイ。いまは中に誰もいないから、外に誰もいないし、鍵もかけないんですね?」
「はい」
 小さな背中を見送って、後ろ手にドアを閉める。今日は蹴つまづくことなくテーブルに盆を置いた。女の子が奥、大蔵は手前の席につく。
 やっぱりこの部屋はあたたかい。南に面しているのだろう。暗くなるまでは暖房がいらないようだ。いつの間にかストローを用意してくれていて、グラスにさして吸う。炭酸の刺激がノドに心地よい。アイスだからゴクゴク飲めてしまう。
「早いですね、もう飲み終わっちゃいました?」
「ああ、いいですよ、ゆっくり飲んでください。氷、本当に溶けにくいですね。まだこんなに大きい」
「窓から明かりがはいって明るいし、氷が透きとおっていると、とてもキレイでしょう?」
「本当ですね」
 アイスティーを飲んだら、また捜査にもどらなければならない。大蔵は被害者が使っていたという机の上に目を移した。

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