(ブログ連載小説)いちごショート、倒れる #10

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10.いちごの食べ方って、一生かわらないものです
 アルバムをさらに進むと、メイドの女の子が一緒に写るようになった。やっぱり誕生日に撮ったらしい写真があらわれた。被害者の女の子はやっぱり先にいちごを食べている。メイドの子はまだだ。
 あれ?
 つぎにケーキを前にふたりで写っている写真では、メイドの子のいちごがなくて、被害者の子のいちごが残っている。被害者の子にとられてしまったのか?あんたメイドなんだから、いちごわたしによこしなさい、みたいなことか?
 さらにつぎになると、また被害者の子のいちごがなくて、メイドの子のいちごは残っている。あとにはもうケーキを前にしてふたりで写っている写真はなかった。
 いちごの食べ方のポリシーが変更になるなんてこともあるのだろうか。やっぱりメイドの子はいちごを取られてしまっただけだろうか。
 考えてもわからない。サクラさんに聞いてもわかるはずがない。きっとまた気を悪くしてしまうだろう。黙っていよう。
 そうだ。仕事仕事。
 大蔵はアルバムを相坊にかえして作業にもどる。
 現場の写真。
 好き好んで見たいという人もいないかもしれないけれど、気が重い。なんでこう、生々しい感じで撮影するのだろう。もうちょっと、雰囲気よさそうにとってもいいのではないかと思う。ちょっと、カメラやレンズをかえてみたらいいんじゃないか。
 ああ、押収したというケーキが撮ってある。いちごショートまでホラー映画のワンシーンのようにおどろおどろしい印象だ。とてもおいしそうとは思わない。いや、これを食べるはずだった女の子が殺されたのだから、おどろおどろしいのだけれど。もうちょっとファンシーな感じに取れそうなものだろうか。
 ケーキは、押収してどうしたんだろう。なにか調べたのかな。ま、いいか。ケーキの話をしていたから、つい気になってしまっただけだ。
 ふたつのケーキのうちひとつ、倒れているほうはいちごがない。倒れていちごがころがってしまったのかもしれない。これは気持ち悪い。解決しないことには気持ち悪くて、落ち着かない。
 現場写真を全部調べた。でも、いちごがない。
 なるほど、ということは。
 今度は司法解剖の所見を見る。女の子の胃の内容物は、いちごが、ない。
 どういうことだ。
 まさか。
「サクラさん、ダメですよ。現場にあったいちご食べちゃったでしょう」
「食うか、ボケ。生クリームだけじゃなくて、いちごも嫌いなんだ」
「失礼しました。でも、いちごどこいったんですかね」
「知るか、ボケ」
 ボケって、二度も。ひどい。
「じゃあ、どうしたっていうんですか、いちご」
「被害者が食ったんだろ?」
「そうなんですよね、被害者の女の子、先にいちご食べる派だったみたいなんです。でも、胃の内容物にいちごないんです」
「じゃあ、食わなかったんだろ」
「ということは、メイドの子が食べちゃったんですかね。でも、いや、まあ、そうか。そうかな」
「納得したか」
「はあ、まあ」

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