(ブログ連載小説)あいすクリームは溶けない #8 (最終回)

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8.歌詞を書くのは苦手なのです。許してあげて
「おれの作詞のセンス、知ってるだろ?」
 笑い声が起きる。友人の間では有名なのかもしれない。取り調べでも、ロックにならないからギターの子に直してもらうと話していた。大蔵は歌詞なんかどうでもいい派で、ボーカルを楽器のひとつくらいに考えている。話を聞いていてもあまりピンとこなかった。
「直してくれるやつがいなかったんだよ。ガマンして聴いてくれ」
 ぶーぶーとブーイングを浴びせている。男子高校生はみんなお調子者だ。
 ボーカルが舞台袖からギターを運んできて、スタンドに立ててステージの真ん中に設置する。被害者のギターだろう。
 ドラマティックなイントロで曲がはじまる。
 ワンコーラス目が終わって、歌詞を書くのが苦手だというのがよくわかった。さすがの大蔵もズッコケてしまうような歌詞だった。前の方に陣取っている男子高校生は派手にズッコケていた。
 曲はいままでの中でも一番良い。ドラマティックで、適度にテクニカルで、メロディもよい。
 ツーコーラス目が終わり、ギターソロがはじまる。
 いや、はじまらない。ギタリストはバッキングを演奏したままだ。ライトはステージ上のギターにだけ当たっている。そういう特別な演出なのだ。仲間を悼んでいるのだろう。こちらの胸も痛くなってしまう。となりで音を立てて、女の子がイスにへたり込んだ。無理もない、悲しい現実をつきつけられてしまったのだ。
 心の中にだけ響くギターソロが終わって、演奏が戻る。前に陣取っている男子生徒たちもいまは棒立ちだ。
 歌詞の終わりが長く高く尾を引いて、曲が終わった。となりで女の子が声をあげて泣いている。どこかで鼻をすする音が響く。
 メンバーをコールし始めた。ゲストギター、ベース、ドラム、ボーカル、最後にギターの子の名前をコールして全員ステージを引き揚げた。ステージ中央のギターだけが照明で照らされて輝き、幕が上から降りてきて
 すべてが終わった。

「今日も暑いからアイス食べますか?外回りの帰りに買ってきましょうか」
「あの子ならバイトクビになったぞ」
「クビ?穏やかじゃないですね」
ドライアイス、いれる量決まってて、増やすには追加料金取るだろ」
「そうですよ。そのくらい知ってます」
「あの子は知らなかったらしい。それか知っててわざとかもしれないけどな」
「それで、やけにいっぱいドライアイス入ってたんですね?このあいだは」
「事件の直前、差し入れもって行っただろ」
「ああ、アイスを差し入れたんですか。てっきり夜食になるようなものかと思った」
「大量のアイスに大量のドライアイスをもって行ったらしい」
「はあ」
「それで翌日ドライアイスが足りなくなって、慎重に調べを進めたらあの子がドライアイスずっと入れ過ぎだったってことがわかった」
「それでクビですか。冷たいものですね、アイスだけに」
「コロス」

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