経営学的、出版業についてもっと

返本制度の話をします

 多くの場合、書店はお店で売れなかった本を返品できるようです。本だから返本というのですね。今回のメインテーマです。
 返本のこと、知っているとは思いますけれど、そんなこと知らんという人は、ちょろっと検索して調べてみてはどうでしょう。
 そんなことしなくても、このブログは読めばわかりますけれど、自分で考えるには、十分な知識をもったうえで、九乃の書くことが適当であるかどうか吟味しながら読み進むことが大切です。九乃にダマされちゃいけません。

返本制度の流れ

 出版社は印刷部数を決め、本をつくり、取次へ納品するという流れは何度も書きました。これは、本を作って売るという視点です。
 返本という視点で見てみましょう。
 出版社が印刷部数をどうやって決めるのか知りませんけれど、たいした根拠もなく決めていることでしょう。あてずっぽうに印刷して、あとは取次まかせです。
 取次は、うまくいっていないシステムで書店への配本を決めます。書店から注文もありますし、返本できるからとりあえず置いてねと一方的に送りつけることもあるでしょう。配本を決めました。
 書店は、取次によって根拠もなく決められたタイトルと部数を受けとり、店頭に並べるか、さっさと返本するか決めます。店頭に置いて売れなければ返本します。期限がありますから、早く判断しないといけません。店頭に置きたい本を取次に注文しても、その通りに本がやってくるかはわかりません。取次まかせです。そのため、売りたい本はやってこず、いらない本が大量にという状況があるようです。クソですね、このシステム。

出版社は保険会社?

 返本のリスク、どこが負っていますかね。本は書店で売れたとき、書店が買い取ったとき、出版社にとって本が売れたことになります。それまでは在庫です。
 出版社が返本のリスクを負っています。きっと経営を圧迫していることでしょう。返本のリスクというのは、売れ残りリスクです。本来書店が追うべきリスクですね。書店の保険みたいなものです。返本制度。

 でも、結局読者がコストを払わされますよね。そうなると、売れる数が減り、バリューチェーン全体で損をするという流れはすでに書きました。

おかしいところ

 出版社は保険屋と思ってみましょう。つまりセットです、保険と本と。
 本物の保険屋さんはリスクをめっちゃ計算します。計算の前の統計数値も大変重要。そのうえで、優秀なアクチュアリーという専門家、保険屋さんの従業員です、囲い込んでいます、がリスクを計算し保険屋の利益やなんかもろもろを上乗せして保険料を決めます。
 リスクを実際より大きく見積もれば、保証がしょぼいのに保険料が高い商品になりますし、低く見積もれば、保険屋に入ってくるおカネより保険金として支払うおカネが多いということになって、加入者はよろこびます。だから、アクチュアリーが超計算し、保険会社がもうかりつつ、加入者がまあこのくらいは払わないといけないのかなあと思うような保険料を決めます。加入者は統計資料をもちませんし、計算する能力もありませんから、保険屋がヘタを打たなければダマされます。
 出版業にアクチュアリーはいません。リスクなんて考える人はいません。すごく原始的ですね、出版業。文明開化はいつですか。
 一番おかしいのは、リスクを負っている出版社が配本を取次まかせにしていることです。家族全員車に乗って、小学生の運転で高速をぶっ飛ばしているようなものです。そりゃ、出版関連業界全部苦しくなります。大事故、家族全員死亡です。
 出版社がいくら保険について素人でも、そりゃないだろと、九乃なんかは思います。

イノベーション

 破壊的イノベーションがあります。LCCなんてそうですね。乗客がもとめるものはなにか、そこに経営資源を投入し、乗客がたいして求めないことはやめよう、で、浮いたコストで料金下げようということです。大手航空会社はブランドイメージがありますから、簡単にLCCのマネができない。LCCはガッポリ。そういうこと。
 出版業で一番のイノベーションは取次に対する考え方をかえることだってのは、簡単にわかります。おかしなところをかえればよいのです。

価値を生み出しているのは小説家

 本の価値は物としての本にはありません。内容です。ということは、バリューチェーンの中で価値を生み出しているのは、小説家だけです。
 破壊的イノベーションを考えるときは、小説家を中心にして考える必要があります。
 読者にとって価値の低いものを削る。さて、なにが残るのでしょうね。
 あとで考えましょう。

デジカメはどうだった?

 わたくし、カメラに興味があったのですね。以前のことです。銀塩カメラ、ノスタルジックでよいですね。もってませんけれど。デジカメが普及しだしたころ、プロのカメラマンは、デジカメはまだプロの仕事には使えないと考えました。でも、速かったのですね、そこから。数年でプロの仕事はデジカメでないとダメになりました。データで納品するのが当たり前になりました。
 本はいまだに紙が優勢かと思いますけれど。いつかは銀塩カメラと同じ運命になるのではないですか。あるいは、レコードのように。マニアだけが紙の本を読むようになるのかもしれません。新刊の書店は消えるでしょうか。それとも紙ではない本を売るようになるでしょうか。消えそうに思います。CDショップ見かけなくなりました。なにかのお店の片隅でひっそりCDやDVDを売っていますね。

他の産業を見てみろ

 製造業の話です。販売予測が重要です。販売予測に従って生産計画を立てるのです。精密な生産計画は、コストを最小限にしてくれます。在庫が減って売れ残りが減ります。在庫も売れ残りもコストです。
 販売予測に従って生産しつつ、最終段階では、生産と販売が一致するように、ほぼなっています。売れるだけ作れば無駄がない。
 車屋さんのトヨタが編み出してきた手法を経営学は学び、取り入れてきました。トヨタさん、自分たちの利益に直結しますから、気合がちがいます、経営学者とは。
 トヨタは生産計画を計画期間の長さでみっつもっています。販売店からの予測をもとにするわけですけれど、計画期間がちかづくほど予測はしやすくなります。計画期間が近く短期の予測があたりやすいですね。天気予報の週間より、明日の天気があたりやすいし、一時間後の天気はもっとあたりやすい。同じです。
 実際に売れるだけつくることができれば、売れ残りのリスクはありません。それを目指して工夫したのですね、トヨタ。計画と実際は1%の誤差しかないらしい。

出版は?

 販売予測、すればいいですね。書店から情報を吸い上げればよいのです。新刊情報を流すのだから、いりますか、いるなら何冊にしましょ、現在集計するとこれだけの数と情報があがってますよとやったら、どうも人気のある本らしいとか、うちの客には売れそうもないとか、ある程度判断できそうですよね。あるいはいっそAIに学習させて配本を決めちゃうとか。

コンビニだってやっている

 コンビニなんて、弁当とかめっちゃ予測することが切実ですよね。全国に書店より多くの店舗がありそうです。きっと本よりうまくやっていますよね。知りませんけれど。
 いくら商品の点数が多いとしても、書店と出版社でできないってことはないでしょう。ビッグデータとか言っているいまどき。利益に直結することですし。取次ができないといっているにすぎないのでは?
 取次がダメなのです。ダマされています。ダマされつづければ、どんどん苦しくなるでしょうね。

小説家の商売に対する予測へ

 出版社は返本のせいで体力を奪われ瀕死です。小説家はコンテンツをつくるのでした。本づくり工程の最上流に位置しました。価値を生み出しているのは小説家だけでした。出版社にいつまでも頼っていては共倒れになりそうです。
 やっぱり、小説家の商売に対する予測として書いたことにつながります。
 直販したらいいんじゃないのと、別のエントリーで予測というか提案しました。小説家何人かで共同事務所をつくるのもありなのではとも書きました。大極宮みたいなものですかね、大極宮の事務所がどんなことしているのか知りませんけれど。
 わたくしは小説家ではありませんから、そういった選択肢はありません。アマゾンで電子出版でもするしかない、あるいは、別のエントリーで提案した、本とノベルゲームのいいとこどりスマホアプリを試すくらいです。
 書店がなくなり出版社が力を失えば、プロも素人もなくなるかもしれませんけれど。

ほかの使い道

 小説家って、コンテンツをつくれる、けっこう特殊な人材じゃないかと思うのです。狭き門を潜り抜けてデビューしているし。狭くない?わたくしには狭いのです。
 出版社からの注文を受けて小説を書くだけ、運命を出版社にまかせ、狭い範囲の仕事しかしないというのは、もったいないのではないかと思いつきました。
 なにか別の形で小説家を有効活用できないものでしょうか。具体案は、ない。
 ゲームの原作とかつまんないし、映画脚本は本業の脚本家と競争だし、なにか新しいことをしなければなりません。新しいと言っても、すでにあるものを組み合わせて新しさを演出するのです。なにか思いつきませんか?

ごあいさつ

 ここから先を考えるのは、かしこい人にお任せいたします。今回はここまで。ごきげんよう