柳井政和「レトロゲームファクトリー」(新潮文庫)はハードボイルドである

きっかけ

 作者の柳井政和のことは一田和樹さんの関連で知ったのだと思います。こまかいきっかけを忘れました。
 お知り合いというほどでもないのですけれど、ツイッターでフォローしてもらいましたから、お知り合い一歩手前といったところです。応援のために「レトロゲーム」を購入しました。たしか、リアル書店で。
 買うと安心してしまうものです。ツン読の山に載せました。
 カクヨムで「ハッピー・ハッキング・ハイスクール」という小説が公開されていて、そちらを先に読みました。コストかけている方に先に手をつければよいのに、人間というのは不合理な生き物です。

 

帯の文句がダメ

 「レトロゲーム」です。表紙はアニメチックでポップですね。新潮文庫と言っても nex というブランドで、これはラノベに近い分野のブランドです。ラノベが人気だと言うので新ブランドで新セグメントに進出したわけです。
 帯が、いただけません。
 「本格お仕事小説」とあります。お仕事小説の読者層にレトロゲームはアピールしないのでは? どのくらいのマーケット規模があるか調べたのでしょうか。お仕事小説と言われても、お仕事小説というのを読んだことがないからよくわかりませんけれど。
 わたくしは中学入学と同時にゲームを卒業しました。現在もまったく興味がありません。「レトロゲーム」は、お知り合いに近い人の本だから手にしたにすぎません。でも、読んだら楽しめました。
 それから、「下請け vs. 大手」と大きく書いてありますけれど、それはむしろサブストーリーです。メインは、謎のゲームクリエイターを追うハードボイルド、ミステリーです。それに、実際は会社同士の争いではありません、個人的な確執ですから、下請け対大手という図式は当てはまらないと考えます。

 

ストーリー

 主人公は昔のゲームをスマホなど今あるハードでプレイできるように移植する仕事をしています。ゲーム会社の依頼から仕事がはじまります。
 依頼されたゲームの権利をもっているのが謎のゲームクリエイター。その移植する許諾を取るというのがメインのストーリー。
 謎のゲームクリエイターは業界から姿を消しています。まず人探しですね。それから、依頼されたゲームの海賊版を配布している人物がいる。これやめさせないといけない。
 謎のゲームクリエイターが業界から姿を消すにあたっての物語があります。居所をつきとめたあとも問題山積。
 親と子、自分のやっていることの意義、自問。そういった普遍的人間ドラマがあります。

 作者が「レトロゲーム」の企画開始以前から発売まで自らカクヨムに書いています。

 

感想:ハードボイルドである

 どのエピソードもレトロゲームの移植の話というより、人探し、謎解き、説得、そういう話なのですね。ハードボイルドですよ。ハードボイルドとして面白い小説。

 つまり、お仕事小説の読者でレトロゲームに興味ある人向けの小説なんて極狭く考えるのは小説の評価を誤っていると言わねばなりません。
 売り方を間違っています。
 この小説が売れているのかいないのか知りませんけれど、売り方というかポジショニングをかえればもっと売れる可能性があると思います。編集者がポンコツなのでは。このままでは小説が不幸です。