(ブログ連載小説)あいすクリームは溶けない #2

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2.ここからはじまるんですか?
 大蔵が車を降りると、なにか喚き声がしている。なんだなんだ?声を聞きながら門をとおった玄関前でモメている。
「中に入れてよ、わたし彼女なの、付き合ってたの」
「被害者のご遺体は搬送済みです」
 高校生くらいの女の子がサクラさんに食ってかかっている。
「くるの早かったですかね」
「おっそいわ!もたもたしやがって。あっついからご遺体は搬送してもらったからな」
「はい、大丈夫です」
「刑事さん?刑事さんなの?なんで?なんで入れてくれないの?」
「まだ家の中を調べているから」
 サクラさんから攻撃対象を変更したようだ。大蔵の胸にすがるように訴えてくる。大蔵の体はのけぞる。
「それって、事件ってこと?殺されたの?だから刑事さんがきて、わたしはいれてもらえないの?」
「いや、まだ事件かどうかわからない段階かな。まずはそこを調べるんです」
 玄関から高校生らしき長髪の男の子が出てきた。
「やっぱり、声がすると思ったら」
 こんどは出てきた男の子に抱きついて泣き出した。本当か?なんだか演技がかって感じられる。サクラさんは、完全に演技だと思っているらしい、冷たい目線をこちらに送ってくる。
 サクラさんは、芸術家が何本も線を書き直して完璧な線を奇跡的につかんだというような顔のラインをしている。唇はうすくて整った形をしているし、目だって濡れたような切れ長の美しい目をしている。外見だけは女神のようだ。ただ、腹の中がドス黒い。いや、口もか。大蔵より年上なのだけれど、浮いた話は皆無だ。相坊も怖がって近づかない。
 鑑識課の人間がぞろぞろ玄関から出てきた。小声でオクラ、オクラだというのが聞こえる。おいこら、聞こえてんぞ。いつまでも事件未解決記録が更新されると思うなよ。
 よし、取り調べだ。
 サクラさんがアゴで男の方を取り調べろと指示してくる。その方がいいだろう。うなづく。
「すみません、ひとりづつ話を聞かせてほしいのですけれど」
 女の子は泣き声をとめない。
「どこで?」
「えっと、お亡くなりになっていたという部屋で」
 男の子が女の子を引きはがす。
「話聞かせろってさ」
 うつむいていた顔をあげる。こちらを見る。嫌だ、こっちを見ないでくれ。
「刑事さんが?話聞いてくれるの?」
「いや、あっちの」
 サクラさんを見て固まってしまった。
「やだ、わたしあの人嫌い」
 また男の子に抱きついてしまった。なかなかやっかいな子だ。男の子には先にはいって部屋で待っててもらうことにする。どうにか女の子を引きはがして玄関の中に入ってもらった。
「ほら、中に入りたかったのでしょう?やっと入れますよ」
 キョロキョロとさっきの男の子を探す。
「どこいったの?」
「先に中に入りましたよ」
「一緒なんでしょ?」
「別々で話を聞かせてください。えーと、キッチンでどうです?なにか冷たいものでももらって」
 人の家だけれど、勝手に決めてしまう。
「サイダー」
「サイダーね」
 サクラさんが肩をがっしりつかんで連行してゆく。
「え?ちょっと、わたし嫌だっていったでしょ。あの男の刑事さんに話聞いてもらうって」
「ぐずぐずぬかしてっと、腹かっさばいて直接胃にサイダー流し込んでやんぞ」
 サクラさんは笑顔でこんなことをのたまう。玉に瑕。

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