(ブログ連載小説)あいすクリームは溶けない #6

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6.文化祭が青春なんて人がいるんですか?アニメですか?
 大蔵は高校生時代、勉強にしか興味がなかった。文化祭になにをしたかという記憶も定かではない。三年間で一度しかないのだから、記憶に残らなくても仕方ない。たぶん自習室で勉強していたのだろう。出席だけは取るという話だったかもしれない。
 廊下を歩きながら、楽しそうにしている高校生を見ると、なにが楽しいのかと不思議でならない。
「いいですよね、文化祭って」
 ここにも得体のしれない生物がいたか。
「なにがいいんだ?」
「授業がないじゃないですか」
「ああ」
 大蔵は授業があってもなくても勝手に勉強していたから変わりがなかったのだ。普通はそういうものかと思い直した。
「大蔵さんは文化祭でライブやったんですか?」
「いや、やらない」
「じゃあ、劇とか?」
「いや、まあいいだろ」
「なんですか、秘密ですか。あ、恥ずかしい失敗しちゃいました?」
「黙って歩け」
 頭を押さえつけてやる。
「あ、きてくれたんだ!」
 廊下をぞろぞろと連なって歩いていたら、能天気な声が降ってきた。アイス屋の制服から、今度は和服になっている。
「ライブを観にきてみました」
「それより、お茶飲んでってよ。わらび餅もすっごいおいしいよ」
 大蔵はドーナツをコーヒーで食べたばかりだった、おいしいと言われても胃袋に押し込む隙間がない。
「米田さん食べます?わらび餅。おれは腹いっぱいなので先行きますけど」
「そうだねえ、わらび餅と聞いたら素通りはできないよねえ」
 サクラさんもうなづく。
 サクラさんはこの女の子が彼氏を殺したと疑っているのだ。そう聞いて相坊などは、まさかあ、あんなかわいい顔して、素直な子が人なんか殺しませんよと言った。対してサクラさんは、女を見る目がないとバッサリ切り捨ててしまったけれど。
 ギターの子の死亡が事故でないとすると、ボーカルの子か、彼女の女の子を疑うしかない。でも、女の子を疑うには問題がある。帰ったときと死亡したときに時間差がある。なにか仕掛けを使わなければならないだろう。それとも共犯?
 ライブ会場の体育館はすいていた。高校生バンドのライブなんか友達くらいしか興味をもってくれないのだろう。プログラムの扱いもそれなりだ。いい時間帯は劇に占領されている。空いた時間にライブを押し込めましたという印象だ。ロックバンドのほかにアイドルグループっぽい名前も含まれている。
 暗幕カーテンを閉めているから、照明が落ちるとかなり暗い。目が慣れてきたところで、中ほどの席に相坊とならんですわる。いかにも初心者といった感じのぎこちない演奏が終わって、照明がついた。セットチェンジだ。
「大蔵さんはどう思います?女の子が彼氏殺しちゃったんですかね」
「どうだろうな。殺し方がわかれば解決って気はするけど。女の子と彼氏のあいだに問題なかっただろ?」
「そうですね、サクラさんの方もなにもあがってないみたいでしたし」
「理由がない、やり方がわからないじゃ、手も足も出ないよ」
「なんでサクラさんは疑ってるんですかね」
「いや、おれだって疑ってるよ。ボーカルか彼女しかいないだろ」
「まあ、そうですけど」
「ボーカルにだって理由がない。つまり、まだ表に出てきていない理由が隠れてるんだろうな」
「ふたりがデキていて、ギターが邪魔になったとか」
「あるかもしれないな。そうすると共犯かもしれない。ボーカルとギターがデキていて、彼女は裏切られた気分になって殺したってことも考えられる」
「うへぇ」
「その場合、ギターだけ殺すのはおかしいから、ボーカルも危ないかもしれない」
「なるほど」
「実は別れ話が進んでいたかもしれないし、ギターがバンドを脱退するって話があったのかもしれない」
「ということはどうなるんです?」
「どうやって殺したかを調べるんだ」
「継続捜査ですか」
 嫌そうな顔をしている。大蔵だって嫌だと思っている。
「殺し方がわかればきっと被疑者が特定できるだろう。そうしたら、取り調べで勝負をかけられる」
「むづかしいんですね」
「そうだよ。なにもわかってないのに取り調べてもシラを切られたら終わりだ。こっちはなんでもお見通しって思わせなければ、なにも話してなんかくれないさ」
 脅したり、なだめたりして無理やり話をさせて誤認逮捕や冤罪を生んだこともある。取り調べは慎重にならなければならないのだ。

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