経営学的、編集者の考え方

一田和樹のプロローグ

 応援コメントを書きました。

第76話 最高と最悪。真っ二つに評価が分かれたプロローグの実物 - 新人賞受賞は運=確率! 1年9カ月で投稿96回、受賞2回、最終候補6回。!(一田和樹) - カクヨム

 わたくしは、プロローグの機能について書きました。
 コメントに、もうひとつ追加で挙げられると思います。主人公と敵が戦う土俵みたいなものです。主人公は自由意志を尊重する価値観の人、敵は神に絶対服従であり、神の目的のためには自分も含めて人間をモノとして扱う価値観の人。価値観が戦いの、土俵はカッコ悪いかな、主戦場である。そのように、プロローグで宣言しています。
 それぞれの価値観によると、お互い相手を野蛮人だとみなすことになります。
 でも、主人公の方はブレています。ヒロインの意思を押さえつけたいと思ってしまうのです。はい、主人公と敵の同質性が描写されているのです。その点、敵の目が主人公の父親と似ているというのも象徴的ではないですか。
 同じもの同士が戦うというのは、なかなかに盛り上がるわけです。単純な正義と悪の戦いよりも、正義対正義のほうが葛藤が強くなりますからね。立場が違うだけで、同じ種類の人間が戦わなければならない、みたな。
 さらに、主人公の挫折、これもプロローグで描かれていて、かなりてんこ盛り状態です。典型的なうまいプロローグと評価してよいのだと思いますけれど。

的外れでした

 と、ここまで書いてきたのですが、どうも的外れなことを書いていたようです。作者の返信にある通り、機能の話ではないというのですね。よくわかりません。わたくしは、小説の文章を、ある機能を実現させるものと考えていますから。

感覚的に受け入れない

 というのがわかりませんね。
 編集者というのは、自分の好みで仕事をしているということなのでしょうか。それでは売れる小説を世に出すという使命は果たされないわけですけれど。そんな使命は負っていないということかな。

経営学の登場

 ここからは編集者について、経営学的に考察します。はい、九乃は元経営コンサルタントであるという設定なのです。前回のエントリーで、ベストセラーについて経営学的に考察したことを、編集者について実行します。といっても、九乃は経営学を教える人ではありませんから、説明が必ずしも正確ではないこともあるでしょう。ご利用は計画的に。

編集者はマーケター

 編集者について、あまり知りませんけれど、他の企業で言うと、マーケターにあたるのではないかと思います。
 マーケターというのは、マーケティングを担当する人です。多くの人のイメージでは商品を宣伝して売れるようにする人でしょうか。イメージを更新していただきたい。
 現在のマーケターというのは、企業活動の全方面に関わります。顧客のニーズという点からですね。

マーケターとは

 商品開発に関わります。顧客のニーズを探ることから始めますね、商品開発というのは。ニーズを探る活動を担当するのはマーケターです。市場調査からニーズをすくい上げます。ニーズの視点から商品開発に関わるのです。売れないから商品化しないと経営判断されるようなものを開発するのは無駄ですからね。ニーズに沿った商品を開発するためにマーケターがからみます。
 設計、製造に関わります。顧客に接しニーズを探った本人が、設計、製造する人にニーズをつたえ、ニーズを満たすように意識して設計、製造するように導きます。製造しながら工程を改善するのですね、製造現場では。そのときにニーズを意識して、改善の方向性を決めるのです。それは顧客満足に貢献するのか?と問うのです。ニーズを把握していなければ答えられません。
 物流、中間業者を管理します。物流は大切です。アマゾンでポチったら、早いと翌日に荷物が届きます。そんなに早くなくてもいいよってくらいです。選択すれば、もっと早く届けてくれるようです、わたくしは通常配送にしますけれど。でも、一週間も待たされたら、本屋行って買うわとなりそうです。顧客の満足に大きく影響しますから物流大切です。中間業者というのは、問屋です。どこで売るかってことに関わります。スーパーなのか、コンビニなのか、ドラッグストアなのか、百貨店なのか。個人商店や、専門店なんてのもあります。ルイ・ビトンのバッグはドラッグストアで売りません。高級な、ルイ・ビトンのお店で売りますね。百貨店にはいっていたりします。そのへんのコントロールもマーケターが関わります。ブランディングの一環ですね。
 普通マーケティングといって想像されるような、宣伝的活動があります。販売店に、商品をいっぱい売ってくれるようにお願いしたり、どうやって売ったらいいか指導したりもあるし、CMを作ってテレビで流したりもそうですね。プッシュ・プルなんていいます。
 最後に、売れ行きを調査します。狙い通り売れているのか。売れていないならどこが悪いのか、悪いところを改善する方策を立て、実行します。
 というわけで、マーケターは企業活動の全方面に関わるというお話でした。

編集者のあるべき姿

 編集者はマーケターであると、そういうことにすると、あるべき姿が見えてきます。上に書いたことそのものですよね。小説、というか本について適用してみます。
 顧客というのは、読者です。潜在的な読者といってもよいでしょう。本を買って読む可能性のある人です。どういう本なら多くの人が買ってくれるかを調査するところから始めなければなりません。ニーズの調査ですね。それから、ニーズに沿った商品を開発することに関わります。小説家に注文を出し、なんならプロットに口を出してもよいでしょう。ニーズに合わない商品を開発しては無駄になりますから。
 小説で設計の段階は、本文を書くことが当たるでしょう。ここでもニーズに合致するかチェックする必要がありますね。本という商品で考えれば、レイアウトだのカバーデザインだの、ほかにも設計段階の活動があります。
 製造は印刷です。これは、出版社では外注しています。印刷会社が印刷、製本までするのかな。編集者の仕事としては外注管理です。そういえば、開発、設計も小説家やデザイナーに外注しているわけで、実際にやっていることは外注管理になりますね。
 完成した本は取次を通して書店に配られるようです。取次というのが、物流であり、中間業者です。書店で注文すると最大二ヶ月かかるなんていわれたりします。取次が問屋としてダメなのですね。
 いわゆるマーケティングは、書店にポップやポスターなんかの宣材を配ったり、電車に広告をだしたり、テレビや雑誌で取り上げてもらったりですね。小説家に鞭打って、サイン会行脚にだしたりとか。知りませんけれど。ああ、ツイッターなんかも宣伝のひとつですね。
 売れ行きの調査は、編集者がやらずとも統計が向こうからやってくるのでしょう。数字を調べて、狙い通り売れているのか、売れていないなら何が悪いのか、手が打てるなら打つわけです。帯を替えるとかですかね、簡単にできることは。もう無理と判断して絶版にするというのも、仕事のひとつです。

編集者はマーケターなのか

 どうでしょう、編集者がマーケターであればという話をしてきました。上に書いたようなこと、一部しかやっていないように思いますね。小説家の人で、出版したらそのままほっておかれて、なんのサポートもないと愚痴る人がいます。マーケティング、やってもらえない人がいるのですね。売る気あるのでしょうか。売ったら自分の実績になるのでしょうに。あきらめているのでしょうか、どうせ売れやしないと。
 一番の問題は、顧客のニーズを探る部分が軽視されているということでしょう。はい、このエントリーでいいたいことはここです。
 はじめの、プロローグに対する評価の話です。自分が気に入るかどうかで仕事をしてはいけません。マーケターは顧客のニーズですね、一番大事にすべきなのは。ニーズに合っているかどうかなのです。編集者の好みなんてゴミです。掃いて捨てるべきなのです。
 それから、統計資料を軽視というか、価値がわからない編集者がいるようですね。自分の成績でしょう、販売実績は。成績を見て、反省をしなければ成長はありません。

出版社はひとつのマーケティング部門

 編集者は出版社に所属する従業員です。編集者以外に出版社にどういう人がいるのか知りませんけれど、ほとんど編集者の集団と見ていいのではないですか。そうなると、出版社全体がひとつのマーケティング部門といっていいと思うのです。上に書いたような業務を担当しているわけですね。
 マーケティング部門でありながら、行き届いていないところがあるのですね。企業自体が死に向かいます。だって、マーケターの仕事は、企業活動の全方面に関わるのですから。行き届いていないところがあったら、通常の企業で言ったら、ひとつの部門全体が機能不全を起こしているようなものですよ。出版社を見れば、実際そうなっているのではないですか。
 というわけで、出版不況といいますけれど、出版社が引き起こした面も多分にあるように思います。状況を改善する手は、編集者をマーケターであると位置づけ、顧客のニーズを把握させること、自分の好みではなくニーズに沿って商品を作ること、施策の評価をして改善策を実行させることです。やれることはそのくらいでしょう。
 あとは、出版という事業を定義しなおすことですかね。それは経営トップの仕事です。