「廃棄転生者人別帳」の「第7話 バカップル 牧剛志、朱里鮎美」をカクヨムに投稿しました

 こちらは自主企画ではないけれど、シェアードワールドです。期限がありませんからだらだらと書きつづけています。設定はこちら。

 【シェアードワールド設定】夢と希望の転生ライフ 廃棄転生者人別帳(一田和樹) - カクヨム

 「第1話 服部健吾」の話で書けなかったオチを、とうとう書きました。キャラふたりをパーティーということにして1話にぶっこむという思いつきのおかげで書けました。ひとりづつ書くとなるとキビシイわけです。
 オチを書けばいいわけですから、簡単です。すぐに書きはじめました。メモなしです。700文字で書けてしまいました。ちょろいものです。
 あとは夢と希望を失って廃棄になるエピソード。付き合いはじめてラブラブなふたりでしたから、しばらくのんびり過ごすという、いままでにも書いたような展開。
 モンスターとか考えるのメンドウですからね、ダンジョン攻略ということにしました。パーティーだから強いってことで。
 話の流れがそれていってバカップルになり、特に流れを事前に決めていなかったのですけれど、ヘンな方向に行きましたね。第1話とのギャップが大きくなってよかったのでは。

 これで、第1話のオチも頭から出て行ってくれます。そうだ、フォーマットを合わせるまえの元ネタを載せておきます。長いから読まなくても大丈夫でしょう。2000文字。

 「ケンゴなんて嫌いって言って。
 鮎美のやつ、その場に男を呼んでいたんです。それで腕組んで去って行きました」
「それだけ?」
「それで、家に帰って泣いて。時間の感覚がなくなって。三日か四日か、泣いて寝て泣いて寝てを繰り返して」
「ああ、それで自殺したか」
「まあ、そうです。で、転生して今に至ると」
「うわー、まじか。失恋で死ぬ奴なんてはじめてだわ。繊細過ぎだろ。現実の世界でそんなやつがいるとはねえ。あ、わりいわりい。ここ異世界だっけ」
 ケンロクの奴の肩をバシバシ叩いて親密感をアピール。ケンゴだったから、転生してケンロクとか、真面目なんだか、不真面目なんだかわからない。でも、本当にケンゴだったとは。ジュリアはすげえ目をしてる。肩をとなりにいるジュリアの肩に当てて見かわす。
「そんなんで夢と希望はどうなってんだよ、大丈夫か?」
「それは、すこしはあります。なくなったら生きていけないじゃないですか」
「処分されちまうからな」
 凄みを効かせる。焼き鳥を頬張り、咀嚼して飲み下す。で、ビールだ。いや、ビールと同じものかどうかは知らない。異世界だから。だが、そんなことは気しない。ビールだと思って飲めばビールだ。
「お前さ、神経が繊細過ぎんだよ。クラスで笑ってる奴いたら、自分のこと笑ってるんだって勘違いするタイプじゃねえの?自意識過剰な。誰もお前に敵意なんてもってねえよ。むしろ眼中にねえってのに、勝手に笑われた気になって、悲劇のヒロイン気取っちゃう。あ、ヒロインじゃねえか。
 いいこと思いついた。小説家にでもなれよ。あのうじうじした感じの日本の私小説ってやつ書いたら売れるんじゃねえの。ほら、あったろ。俺はみんなとちがって感性が鋭いんだけど、それを隠してピエロを演じていました。いまは小説家ですみたいな。堕落論だったか?」
人間失格、太宰でしょ」
「詳しいな、やっぱ小説が向いてるよ。すくなくとも勇者なんて柄じゃねえ」
 ちょっと強引だったか。まあ、強引に言いくるめれば、つい従っちまうような人間だろ。ビールをぐいっと豪快にあおる。この一口で飲み終わる。
 ぷはあ。
「それにしてもな。お前、そのアユミって女、本気で嫌いなんて言ってないだろ」
「いや、言ったんですよ。オレのこと見て、真面目な目でした」
「だって、三年か?そんなに付き合ってて、急に男つくらねえだろ。ケンカしたわけでもねえのに。
 行間を読まなくちゃいけねえんだ、女の言うことはな。女は言いたいことをストレートに言ったりしねえもんだから」
「じゃあ、どう説明するんですか」
「男を呼んでたんだろ?そりゃ演出が効きすぎてる。新しい男をわざわざ見せつけるなんてメンドクセえことはしねえよ。おかしいと思わなかったのか?俺が見るところ、雇ったか、友達に頼んだんだな。ケンロクに引き留めてもらいたくて」
「そんな」
「それで、引き留めてくれなかったから、そのアユミって女も家で泣いてたんだな。ケンゴからの連絡を待ちながら。そしたら、ケンゴが自殺したって話がくる。わたしのせいだわってなって、後を追う。今ごろアユミも転生してこっちの世界にいるんじゃねえか?」
「そんなバカな。オレは捨てられてなかったって言うんですか」
「間違いねえと思うぞ?後を追わずに、今頃新しい男を探してるかもしんねえけどな。女ってのは強ええ生き物なんだ」
 テーブル越しに肩をつかんで引き寄せる。顔がちかづいた。
「どうだ、自信を取り戻したか。ほら、このなんか知らない鳥の焼き鳥でも食って元気出せ。元気が出たら紙とペン買って小説でも書け。いや、女のセリフの行間読めねえようじゃ、ダメかもしんねえか。女が書けねえもんな。BLって手があるが」
 焼き鳥の串を手にして、ケンロクは顔をゆがめた。BLは苦手らしい。体勢をもどしてジュリアの腰を引き寄せる。
「行間を読めるようになれば、俺みてえに女にモテるようになるんだけどなあ」
 ジュリアが腕を回して俺の頭をなでる。お返しに腰から脇にかけて撫で上げる。
「オレはもうこのへんで」
「帰るのか?」
「ええ、宿屋へ戻ります。転生した早々マキシさんみたいな頼りになる人に会えてラッキーでした」
「いいってことよ。しっかりな」
 ひどく頼りない足取りで酒場を出て行った。
「あんなのでよかったのか?正体を明かした方がダメージデカかったんじゃねえかな」
「わかってないなあ。わたしたちが付き合って、自分が捨てられたってことは生きてるときに味わってるんだから、もうそれほどショックは受けないでしょ。自分が信じていたものが間違っていたって知った方がショックってものなの」
「なるほど。さすが鮎美。あの男のことはお見通しだな」
「ケンゴだけじゃなくてね」
「女は怖えな。車で事故る瞬間はどうなることかと思ったけど、こっちの世界も悪くねえんじゃねえか」
「そうねえ。ふたり一緒だし」
「そこ大事」