一田和樹「大正地獄浪漫 3」(星海社)を読みました

ツン読は世の理

 「突然の召喚魔法で失礼します。いま召喚よろしいでしょうか?」をカクヨムに投稿中、かつ「ネビラのトビラ調査」という大人でもカクヨム甲子園にエントリー予定の小説をちびちび書いているところですけれど、小説を読んでしまいました。
 ほかのプロジェクトを進めていて小説を書いている場合ではないといいながら、小説を書き、小説を読んでいます。書きたくないし、読みたくないのに。
 カクヨムその他でお世話になっています、一田和樹さんの新刊ですからね、アマゾンでポチりました。予約扱いでしたね。届いてツン読の山に載せました。一種儀式のようなものです。
 そのわりにはすぐに読んでるとお思いですか? はい、わりとすぐに読んでしまいました。というのも、大正の終わりから昭和の初めまでエログロナンセンスというのが流行りまして、そのあたりに興味をもちはじめたからなのですね。
 順番を無視して手を出してしまいました。大正を舞台にしているということで。

 この記事は、「大正地獄浪漫」を宣伝したいところですけれど、すでに読んだ人向けの内容になっています。あらすじとか親切なものは一切ありませんから、そういうのが必要な人はアマゾンなり、出版社のサイトなりをチェックしてくだされ。

 

大正地獄浪漫 3 (星海社FICTIONS)

大正地獄浪漫 3 (星海社FICTIONS)

 

エログロナンセンスで大正地獄浪漫

 小説の内容に行くと思いましたか?あっまーい。あますぎるよー。わたくし、自分の話したいことを話しますから、小説の内容はあとまわし。

 わたくし、現在カクヨムに短編小説を投稿する活動をしています。それ以前に長編を10個くらい書いて賞に応募して落ちたのですけれど。思いついたから小説を書いて、せっかく書いたからカネにしようということで賞に応募していたのです。金目当て。

 もともと小説が好きではありません。科学とか歴史とかが好きなのですね。なんなら専門書に手を出すくらい。
 小説は暇をつぶすためのものですから、つぶす暇をもてあましていないわたくしに小説を読む理由がなかったのです。
 それでも小説を思いついてしまって書いたら、書いている途中で別の小説が思いつきと、罠にはまっているわけです。書くようになって小説を読むようになりましたけれど。
 というわけで、思いついたから書いたというわたくし、自分の小説にこだわりがありません。こういうのを書きたいとか、全くないのですね。思いついたネタに合うように書くスタイル。

 以前、当ブログの記事にしましたけれど。一田和樹さんに短編のレビューをしてもらって、わたくしの強みを発見しようという試みをしました。

九乃カナを解剖する - 九乃カナ、ショートストーリーを書く(書いた)

 そのあとも思いつくのに任せて短編を書き、カクヨムに投稿しているのですけれど。だんだんわかってきました。わたくしという人間が。どういう小説を書くべきかを。
 まず、わたくしの好きな小説。
京極夏彦姑獲鳥の夏」「魍魎の匣」「絡新婦の理」「嗤う伊右衛門
森博嗣「すべてがFになる」
島田荘司暗闇坂の人喰いの木」ほか
 共通項をくくりだすとゴシックではないでしょうか。
 「姑獲鳥の夏」は、廃墟のような医院、出産しない妊婦、呪い、無頭児、乳児殺し、陰陽師、密室、死蝋、ロリコン、喪服の美女。
 「魍魎の匣」は、四角い建物に縦横に管や配線が走っている、躰の切断、箱詰め、近親相姦、百合、身体機能の機械による置換。
 「絡新婦の理」は、妖しい学園、売春、少女売春、SM。
 「嗤う伊右衛門」は、お岩さん、顔を剥いだ男、刀でバッサリ、近親相姦的愛情、寝取られ、乳児殺し。
 「すべてがFになる」は、孤島の研究所、四肢切断死体、近親相姦、近親殺人、出産。
 「暗闇坂の人喰いの木」は、ロリコン、地下室、人皮工作、人形。
 作品の要素はみなゴシック的です。
 というわけで、わたくしの好みはゴシックに偏っているようです。だったら、小説を書くときもゴシックな要素をいれたらいいじゃないかと気づいたのです。
 そう気づいてみたら、はじめて書いた短編も、そのつぎの連作短編も、すこしゴシックっぽかったと発見しました。
 はじめて書いた小説は、泥棒が侵入した家で手足のない女をその女の母親に押しつけられるストーリーでした。胴体があるように見えて、胴体はカバーなのです。開けると、胸までしかなくて、あとはカバー内に設置された機械で生かされています。なかなかゴシック。
 つぎに思いついた連作小説は、検事が魔女を尋問します。魔女かどうかを確かめるのです。魔女かどうかのテストはなぜかエロいのですね。そのエロいテストをひとつづつやってゆくという。これはただのエロですか? オシッコ飲むのは、縄で吊上げるのは、ゴシックではない? 勘違いだったかもしれません。
 はい、わたくしの原点はエロ、もとい、ゴシックだったのです。今まで気づかなかった。というわけで、雰囲気たっぷりの古城で、バラバラとか猟奇的な殺人事件が起きて、主人公の探偵はヒドイ目に遭って四肢切断という小説を書いたら楽しくなるかもしれません。
 その場合に文章が重要です。やっとここにきました。エログロナンセンスの頃の文章はどんなだったかいなと興味が湧いてきました。大正、昭和風味の文章で現代を舞台にゴシックするのはどうでしょうね。
 そう思って、大正が舞台の「大正地獄浪漫」をツン読の山から順番すっ飛ばして手に取った次第。文章は現代ですけれど、大正の事物がうまく小説に溶かし込まれていますから。

大正地獄浪漫七不思議

 やっと「大正地獄浪漫」の話がはじまります。
 大正地獄浪漫の七不思議から話をはじめましょう。

 一番目。ゲヒルンという特高警察組織の話になっていまして、そこのトップが片目金之助。夏目金之助を想起させます。
 この人、目を包帯で覆っています。3では出てこなかったと思いますけれど、まるで見えているように振る舞うと書いてある場面がありました。つまり、両目を包帯が隠していて目が見えていないと周りの人に思われているということです。
 けれど、イラストを見ると片目が包帯から出ています。うん、片目金之助。さて、どっちなのでしょう。包帯が隠しているのは両目か片目か。
 七不思議の二番目は、片目が蓬莱をどうやって見つけてきたか。眼鏡屋もさぐりを入れていましたが、わからずじまいで3を終えています。
 七不思議の三番目は、氏家って何者? ということです。囮に使うとか、スパイだとか言っていますけれど。眼鏡屋は何度もいないほうがよいともらしています。
 これについては、わたくしの推理がありまして、エピローグに書いてあるのがヒントなのでは? と思っています。片目が花鳥風月に会ったところで、片目一族は三人いて、片目ともう一人が協力すると言います。協力できないのは片目の姉でしょう。ということは残る一人が氏家のことでは? とか。片目一族の可能性がありますね。顔が整っているという共通点もありますし。
 七不思議の四番目は、青島解脱。この人、ゲヒルンと深い関係にあるのに一般人ということはないと思うのです。なにか本屋との因縁がありそう。ただの男装の麗人という可能性もありますけれど。ただのとはいいませんかね。
 えーと、七不思議の五番目は。特にありません。大ぶろしきを広げてしまいました。てへっ。

本の話 

 「大正地獄浪漫」では本が兵器として使われます。本を読んだ人間に影響するのですね。
 ここで立花隆佐藤優「ぼくらの頭脳の鍛え方」(文春新書)のはじめを読み直したくなります。第1章の『大東亜戦争への道』から『和式便所と「國體の本義」の関係』あたり。言葉や文章のパワーについて著者ふたりで語っています。日本が大東亜戦争にツッコんでゆくときに人々の考えに影響した本を取り上げて。
 当時の青年に、大義のために死にたいと思わせるような本がいくつもあったようですね。「大正地獄浪漫」に通じます。

 ついでに松沢呉一「エロスの原風景」という本もちらっと見返しました。これはエログロナンセンス時代のことも気になってのことですけれど。
 この本、副題が「江戸時代~昭和50年代後半のエロ出版史」とありまして、エロ雑誌を通して出版文化や印刷技術について書いた本です。小説ではありません。薄くてカラーで、箱付き定価二八〇〇円とけっこうお高い。箱には「稀代のエロ本蒐集家」とか、いろいろ書いてあります。
 この本の著者はわたくしのお気に入りでして、けっこう本をもっています。人気がなかったらしく、いまはWebマガジンで書いているのかな、最近はあまり本が出ていないようです。
 エロをメインに書いていたのですけれど、どこか知性を感じさせるのです。早稲田を出たとほのめかしていた気がしてインテリだと思っていましたら、法学部出身だそうです。ネットで調べました。
 この人の人生とか考え方も面白いですね。わたくしの持っている本に書いてある経歴では、その本を出している頃に中野ブロードウェイで書店員もやっていました。

挑戦状 

 さて、「大正地獄浪漫」にもどりまして、3巻ですね。視点人物の眼鏡屋ですけれど、本編ラストで片目にある提案をした様子が書かれています。ただし、提案の内容が読者に明かされません。
 これは著者一田和樹さんからの挑戦状です。
 では、推理しましょう。眼鏡屋は片目にどんなことを提案したのでしょうか。もちろんネタバレを根拠にしますから、ここからネタバレ注意ですよ。
 本屋の家系は「無思記」という本を読む能力があるのですね。夫婦ともに読めることが好ましいけれど、そんな人間は本屋の家系の中でも少ないわけです。能力がないのに読んだら狂って死ぬのですね。それで、本屋は自分の妹を妻にした。妹も「無思記」を読めたからです。
 そんなことを眼鏡屋は夢うつつで考えていて、電撃に撃たれます。思いついたのですね、片目の姉のことについて。思いついた内容はやっぱり読者に明かされません。ヒントからすると、どうやら片目の姉は読んだら狂う本をいくつも読んでいたらしいと推測ができます。読まされたのでしょうね。
 なぜでしょう。文字がやっと読める子供のころに読むと耐性ができるのですかね。でも、片目の姉は成長したときに読んでみたら、耐性が及ばなかった。で、廃人みたいになっている。片目本人も同じく本を読んでいたのでしょう。実験台は多いほうが可能性が高まりますから。片目は廃人にならなかった。ふたりともうまくゆけば姉と弟で夫婦になっていたのかもしれません。
 この二つの点から、本を読める眼鏡屋と片目という推測が成立ち、ではふたりは夫婦になるべきなのでは? と、さらなる推測へ進みます。予知能力も共通しそうです。片目は隠していますけれど。
 はい、眼鏡屋は片目に結婚しようと提案したのだというのが、わたくしの推理でございました。このふたり、本来は家同士が敵なのですけれど。片目が読んだ本が本屋の手に渡っているのも納得いく説明ができません。片目は花鳥を裏切っていた?
 どうでしょうねえ、最終4巻で正解がわかります。